ジュニアスキー

ジュニアアルペン競技とスキー全般についての情報ブログです。

運動学習の適時性

「臨界期はスポーツ技能の学習を始める時期を決定するか?」

先の文献は、乳幼児心理学の専門家が書いたものです。

一方、こちらの文献は、スポーツ心理学の専門家が書き、名古屋大学スポーツ心理学の関係者が訳したものです。

先の文献よりもさらに脳科学に近い立場から書かれています。

どちらも客観性が高い文献ですが、学問領域、立場によって適時性(臨界期)に対する考え方がかなり違うことがわかります。

「事実」とは何か、「正しさ」とは何か、考えさせられます。

もしかしたら、一般的な運動学習における「適時性」とトップアスリートを目指すための「適時性」は異なるのかもしれません。

訳は、下記からご覧下さい。

「臨界期はスポーツ技能の学習を始める時期を決定するか?」(1)

「臨界期はスポーツ技能の学習を始める時期を決定するか?」(2)

「臨界期はスポーツ技能の学習を始める時期を決定するか?」(3)

「臨界期はスポーツ技能の学習を始める時期を決定するか?」(4)


Anderson, D. I. (2002) Do Critical Periods Determine When to Initiate Sport Skill Learning.
Chapter 6 in Smoll, F.L. & Smith, R.E. (eds.) (2002) Children and Youth in Sport. Kendall/Hunt, pp. 105-148.

訳者注:学習の臨界期やレディネスの問題は、どの教科書にも載っている古典的なテーマであるが、最近の脳科学、システム理論、子どものスポーツの現場での実践などによって、その知識は大いに進歩した。この論文は、そのような新しい視点から書かれている。原文は43ページにおよぶ長いものなので、要約し3つの部分に分けて掲載します。


下記、臨界期とレディネスについては筆者が原文を改編しています。

臨界期:発達のある時期の経験が他の時期の経験より大きな影響力を持つというような、特別な時期が存在すること。多くの人は、ある技能はこの重要な時期を外して学習が行われると、十分には学習が達成されないことがあり、あるいは可能性を最大に達成することはまったくできないかもしれないと、信じている。

レディネス(readiness = 準備・用意ができていること):子どもがある課題の練習によって進歩することができるようになる前に、身体面で、心理面で、行動面での一定の必要条件が習得されていなければならないこと。

早期の経験の重要性を主張する人々は、臨界期の考え方の基礎の上に立って彼らの事例を説明することが多い。早期の経験に反対する人々は、彼らの事例を説明するためにレディネスの概念を引用することが多い。


今日では古典的になった論文のなかで、マグローはつぎのように書いている。

『あらゆる行動パタンの発達において臨界期があり、その時期はパタンが最も変更・修正しやすいのであるが、行動パタンはこの可変性の臨界期の間にしか練習によって変更されうるのだと推断してはならない。臨界期は単に最も経済的に達成がなされる時期があることを意味しているにすぎない。可変性の最大の時期を逃すことは、他の要因が成長してきて妨害や混乱をもたらし、そのことによって特定のパタンの達成の困難さが増大することを意味している』(McGraw, 1935, p.310)
 
 臨界期という言葉について、マグローは後年、つぎのように説明している。

『新生児の反射が、新しい行動特性の出現の兆しとともに消失しはじめるときに現われる混乱と、そのような兆しが新しい行動特性の練習と挑戦のレディネスを示しているという事実に、強い印象を受けて、私はそのようなタイプの推移を行動を高度なものにしていくための「臨界期」と呼んだ。しかし、事態の成り行きを見ていると、多くの執筆者が、機会がそのときにあたえられなかったならば、その行動はけして成就されなかっただろうと考えていることを発見した。ある特定の行動特性が「決定的な」時期に促進されなかったならば、けして成就されることがないとい考えは、私の意図した意味ではない。私はかつてこの用語の誤用の起こりやすさを認め、代わりに、特定の行動特性の育成を現わす適切な言葉として“適切な時期”という言葉の使用を示唆した』(McGraw, 1985, p.169)


6-9 要約と結論
 臨界期とレディネスについての研究の驚くほどのさまざま結果から、青少年のスポーツへの参加に関して何らかの明確な意味が引き出せるのだろうか?答えは「イエス」である。この章で示された議論から引き出される最も明快な含意は、子どもがスポーツ技能を学習し始めるべき最適な年齢を無条件に決定する方法はないということである。その理由を簡単に言うと、運動技能が習得される速度と習得されたものが保持される程度は、あまりにも多くの要因によって影響を受けるということである。さらに、すべての子どもは違っており、その差異は多方向に散らばっている。子どもたちがスポーツ技能を学習し始める時期の「標準」を作ったとしても、子どもたちがそこで同じような経験をし、同じように反応することを期待してはならない。
 臨界期という考え方は、子どもがいつ、どのようにスポーツ技能の学習を始めるべきかといことを理解するのにはほとんど役に立たないように見える。先天的な知覚障害などは早期に発見して処置を施すことが後の人生での知覚の正常な機能のために極めて重要である。が、特定の解剖学的・生理学的機能は柔軟性、可塑性に欠けるとしても、行動的発達は人生の幅広い時期にわたって形成可能な柔軟性を持っていると考えたほうが賢明であろう。言語の学習や絶対音感の習得なども、適切な動機づけのある個人では、臨界期以外の時期でも学習は可能である。
 スポーツ技能の学習に臨界期が存在するという証拠は存在せず、終局的な成功のために特定の技能の早期の経験は不可欠であるという証拠も存在しない。加えて、レディネスに関する議論から明らかになったことは、子どもにとって特定のスポーツを若年のときから専門化する絶対的な理由ないということである。早期に練習を開始する利点は、成長と成熟にしたがって技能を再調整しなければならないことや、認知や知覚の発達に従って運動のやり方を変えねばならないような不利によって相殺されてしまうことが多い。また、基礎能力をはじめとする前提条件の整わない時期の学習は、運動に悪い習慣がつく原因ともなる。システムというものが時間の経過とともに安定性を増すことを考慮すると、ある年齢でできてしまった習慣は、後年になって前提条件が満たされるようになったとしても、それを変更することは大変に難しい。ここに、スポーツの開始に関して、年齢以外に関心を払わねばならない問題が浮かび上がる。質のよい指導と監督が極めて重要な問題といて浮上する。
 若年での専門化が必要なスポーツもあるが、それらは思春期前にパフォーマンスのピークが来るようなスポーツである。体操などはその例である。また、ダンスやバレーなど、一流になるためには解剖学的・生理学的適応が必要なパフォーミングアートでも早期の専門化がひつようである。しかし、そのような適応でも適切な刺激が思春期に行われることが、最も速やかな効果を表すと、研究は示している。そのようなわけで、専門化は思春期の発動まで待つべきだという考えもあるようだ。それは正しいかもしれないが、技能を効率的に学習することと運動競技に熱中することは別のことだということも、心に留めておくべきだろう。
 この章の議論で明らかになったことの一つは、プロスポーツのスカウトなら誰でも知っていることだが、運動能力テストはスポーツでの最終的成功を予測できないということである。技能というものは諸基礎能力や下位技能の合併集合以上のものであり、練習の継続とともに特殊化の度合いを増していく。技能はさまざまな条件のもとで、努力を経済的に行って、運動課題を解決していく能力である(Bernstein, 1967, 1996; Higgins, 1991)。技能レベルの高い個人と低い個人の違いは運動のパタンをコントロールする能力にあるのではなく、さまざまな条件のもとで運動課題を創造的に解決していく能力であった。このように、技能を問題解決能力とみるならば、子どもの技能の発達を促進させる方法は簡単である。できるだけ多様な問題解決場面に子どもたちをさらすことである!
 臨界期とレディネスの基づいた議論からは離れるが、幼少期は運動技能を学習する最も適切な時期である。その理由は人生の中でそのような学習のために十分な時間を費やすことができる時期であるからだ。そこで重要なことの一つは、子どもに目標や成功の基準を自分で設定できる自由を持たせることである。目標と成功の基準を自分で選択させることは運動技能の実行と学習に興味を持たせやる気を高めることが示されている(Burton & Davis, 1996)。学習プロセスと結びついた欲求不満や、スポーツ技能の習得のための時間と努力からくる疲労や不安を考慮すると、目標や成功の基準の選択は学習を助ける必要欠くべからざる条件となろう。
 つぎに、子どもたちにスポーツの学習を動機づけることについて考えてみたい。成功の結果からくる自信と自己尊厳を感じることはスポーツの喜びの第一の決定要因であり、喜び(楽しみ)は子どもがスポーツへの参加の理由として真っ先にあげるものの一つである。さらに、自信は新しい運動へのチャレンジを喜んで行う態度を育てていく。前にも述べたように、この態度こそがスポーツで成功する可能性の高い個人を最もよく予測する指標であるかもしれないのである。

(了)

2006/04/16

東京成徳大学大学院 心理学研究科博士課程「スポーツ心理学」講義資料  市村操一



以下は、臨界期の典型例とされる視覚野においてもそれに当てはまらない細胞が発見されたという脳科学分野の報告です。


脳発達の「臨界期」が終了した後でも変化する神経細胞群を発見
-脳には、「臨界期」の常識を覆し、成熟期に達しても可塑性を示す細胞がある-


平成22年1月27日

リリース本文(詳細)へ

D・H・ヒューベルとT・N・ウィーセルは、1960年代に、生後初期の子ネコの片目を一時的にふさぐと、大脳皮質視覚野の神経細胞がその目に反応しなくなり、弱視になることを発見しました。この現象は、生後の特定の期間に限られており、このような変化を示す脳の発達期を「臨界期」と呼んでいます。「臨界期」を過ぎると、脳の神経細胞は可塑性を失い、このような脳の変化は起こらない、とされています。臨界期の重要性は、神経科学はもちろん、発達心理学、教育学などさまざまな分野で注目を集め、早期教育の根拠となるなど、影響を与えてきました。
脳科学総合研究センター大脳皮質回路可塑性研究チームは、マウスの片目遮蔽実験で、大脳皮質視覚野の抑制性神経細胞が、「臨界期」を過ぎても、ふさいでおいた目の光刺激に対する反応が悪くなるという可塑性を保持していることを発見しました。一方、興奮性神経細胞は、従来の常識どおり、臨界期を過ぎると可塑性をほとんど失いました。また、抑制性細胞は、両目とも光刺激に対しよく反応する両目反応性であるのに対し、興奮性細胞では片目反応性が顕著であることを突き止めました。抑制性細胞が「臨界期」終了後も変化するという今回の発見は、これまで信じられていた「臨界期」の常識を覆すもので、成人の学習や乳幼児の早期教育の意義を考える場合、参考となる重要な知見となります。


昔は、ものもらいで小学生が良く眼帯をしていましたが、今ではほとんど見かけなくなりました。

弱視の原因になるからと聞いています。

(調べたら8歳以降はほとんど影響はないそうです)


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Author:ジュニアスキー
子供が小1の冬に家族でスキーを始め、すっかりその魅力にはまっております。小4から地元のスポーツ少年団に所属し、競技スキーを始めています。(現在中3)
ジュニアアルペン競技の情報ブログとしてスタートし、最近ではスキー全般、その他に関する話題も扱っています。
上欄のカテゴリから興味のある話題をお選び下さい。
(2009年7月25日開設)


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