科学的方法論のエッセンス
科学的方法論のエッセンス
現代科学において、ポイントになっている事項がいくつかあります。
4点ほど、ご説明を。
1,仮説演繹法
仮説演繹法とは、「ある現象を説明できる理論や法則を得るための科学的な研究方法」のこと。
科学的方法論の骨子になる考え方です。
特徴は、「帰納法によって仮説を立て、演繹法と帰納法を組み合わせて仮説を検証する」方法であること。
そのプロセスは、
①多様な現象を観察し、現象を統一的に説明できそうな仮説を帰納的に推定する。
②仮説から具体的な命題を演繹的に導き、「仮説が正しい場合、こういう実験操作をすれば、こういう結果になるはずだ」(作業仮説)と予測する。
③実験や観測を行い、帰納的に命題を検証する。
④結果が予測通りであれば、仮説を受容する。予想と違う場合、仮説は修正または破棄される。
になる。
ここで、
①帰納的推論とは、「個別的、特殊的な事例(測定対象)から一般的・普遍的な規則(自然法則)を見出そうとする推論方法」のこと。
例:「猫Aはネズミを追いかける。猫Bも追いかける。猫Cも追いかける。従って、すべての猫はネズミを追いかける(必ずしも正しくない)。」
特徴1:前提が真であっても結論が真であることは保証されない。
特徴2:観察する事例を増やすことで、結論が真である確率を上げることが出来る。
②演繹的推論とは、「一般的、普遍的な前提(自然法則)から、より個別的・特殊的な結論を得る推論方法」のこと。
例:「人間は必ず死ぬ。アリストテレスは人間である。従ってアリストテレスは必ず死ぬ。」
特徴:前提が真であれば、結論も真。一般化したものが三段論法。
2,因果関係の証明
研究の多くは、因果関係の証明を目的としたもの。
*数式等でAとBの関係を表そうとすることが多い。(定量的関係)
因果関係とは、Aが原因でB(結果)が生じていること。
その判定として、
・Aが発生すれば、Bが発生する。
・Aが発生しなければ、Bは発生しない。
・Aは、時間的にBに先行して発生する。
が、最もシンプルな基準。
実験例に当てはめると、
・新しい薬を投与したから、血圧が下がった。(主実験)
・新しい薬を投与しなかったから(効果の無いニセ薬を与えたから)、血圧が下がらなかった。(対照実験)
・薬の投与と血圧低下に、時間的な前後関係がある。
*AとBの間のメカニズムの証明があれば、さらに良い。
主実験の結果と対照実験の結果を比べることで、なんらかの操作(介入、A)の結果、Bが発生したという因果関係性をより明確に示すことができる。
*AとBの両方に因果関係を持つ第3の要因Cの影響をコントロールする。
3,仮説を法則・理論にするためには?
仮説演繹法を採用した場合、(仮説の構築及び命題の検証時に)帰納的推論を含むため「絶対正しい」と断言することができない。
言い換えれば、実験科学は確率でしかものが言えない。
*「絶対○○だ。間違いない」と主張するのは、科学では無く、ニセ科学か宗教など(笑)
単なる仮説を法則・理論に高めるために必要なことは、「因果関係」をより確からしくすること。
具体的には、「再現性」を繰り返し確認し、正しさの確率を高めていく作業をする。
ただ、対象が人や動物の場合、同じ刺激を与えても、バラバラの反応を示すことが一般的(同じ人間でも、反応がその時々によって違う)なので、統計学的な手法を使って、バラツキのある中で、存在する(であろう)特徴や傾向を、確率論的に推定していく方法をとる。
何らかの介入(例:新しいスキー教程の採用)を行った結果、技術レベルの平均値に違いが生じたかどうか(生徒の滑走技能が向上したかどうか)をある尺度を持って評価する。まず、「平均値に違いは無い」という「帰無仮説」を立てて、実際に2群(新しいスキー教程を採用した群と採用しなかった群)のサンプルを評価・解析し、その2群の上達度の平均値に違いが見られたとしたら、それが偶然発生したものと見なして、その時の発生確率を計算し、その確率が非常に小さい場合、「こんな滅多に起こらないようなことが起こるということは、前提が間違っているのではないか」と考えて、帰無仮説を棄却するという「二重否定」の方法をとります。
ある母集団(新教程で教わった母集団、教わらなかった母集団)の特徴を把握したいわけですが、通常スクールに入ったすべての生徒を調査できないので、その中から、母集団の特徴を反映するサンプルを取り出し(母集団の特徴を変化させないために一般に「無作為抽出」をする)、そのサンプルの特徴を見ることで、母集団の特徴を推定しようとするものです。(推計統計学)
仮説を理論や法則にするためには、自分でも何回も実験を行って間違いないことを確認した上で、多くの研究者の追試(ちなみに小中学校の理科の実験なども追試の一つ)が行われて再現性が高まると、やっと理論や法則に近づくわけです。
そのぐらい慎重にモノを言わなくてはいけないということです。(笑)
*原発事故の時に、テレビに出てきた(マトモな)科学者が低線量被曝の安全性を断言できなかったのは、論点が確率的な事象で、根拠の評価が難しい部分もあり、科学的な立場からは言い切ることができなかったためです。(一般の方に理解されなかった点だと思います)
4,仮説演繹法の注意点
①主観・先入観の排除
実験等で帰納的な推論を行う場合、客観性が必要。
研究者が対象を観察する場合に、研究者の主観が入ってはいけない。
もちろん対象者の主観が入ってもいけない。
新薬の評価では、通常「二重盲検法」が用いられ、使っている薬が本物か、ニセ薬か、①医師、②患者、そして、(治験をコントロールするごく少数の人間を除き)製薬会社の病院担当者なども含めて、誰も知らない状態で、薬の割り付け、評価がされます。
完全に「主観を排除」しているわけです。(医学では当たり前の考え方になっています)
一般社会では、ここがずさんで、仮説が「主観の塊」だったりします。(笑)
自分の都合の良い事実のみ拾い上げ、都合の悪い部分は無視する、など当たり前のように行われています。
もちろん、スキー業界も例外ではありません。(笑)
②演繹的なプロセスに誤りが無いこと
スキー業界の場合、演繹的なプロセスにも問題がある場合が多いです。
このプロセスには、論理的な正しさと明快さが必要です。
前提に誤りがある、推論の過程が間違っている、ケースをしばしば見ます。
注意点を含めたより具体的な仮説演繹のステップは次のようなものになると思います。
①主観を排除して仮説を立てる。
②仮説が正しいかどうか、命題を立て、これを(主観を可能な限り排除した形で)検証する。
③検証の方法に誤りが無く、結果が仮説の正しさを論理的に証明するものでなくてはいけない。
④追試によって、再現性を確認できるようにする。
決まったプロセスに則って事実を積み重ね、検証を繰り返すことで正しさの確率を高める、という理解を持つ必要があると思います。
主観の羅列は、経験的な真実が含まれている可能性もあり、すべてダメとは言いませんが、データなどの客観的な根拠が無いと、何らかの意義のある「結論」を出すことは難しいと思います。
現代科学において、ポイントになっている事項がいくつかあります。
4点ほど、ご説明を。
1,仮説演繹法
仮説演繹法とは、「ある現象を説明できる理論や法則を得るための科学的な研究方法」のこと。
科学的方法論の骨子になる考え方です。
特徴は、「帰納法によって仮説を立て、演繹法と帰納法を組み合わせて仮説を検証する」方法であること。
そのプロセスは、
①多様な現象を観察し、現象を統一的に説明できそうな仮説を帰納的に推定する。
②仮説から具体的な命題を演繹的に導き、「仮説が正しい場合、こういう実験操作をすれば、こういう結果になるはずだ」(作業仮説)と予測する。
③実験や観測を行い、帰納的に命題を検証する。
④結果が予測通りであれば、仮説を受容する。予想と違う場合、仮説は修正または破棄される。
になる。
ここで、
①帰納的推論とは、「個別的、特殊的な事例(測定対象)から一般的・普遍的な規則(自然法則)を見出そうとする推論方法」のこと。
例:「猫Aはネズミを追いかける。猫Bも追いかける。猫Cも追いかける。従って、すべての猫はネズミを追いかける(必ずしも正しくない)。」
特徴1:前提が真であっても結論が真であることは保証されない。
特徴2:観察する事例を増やすことで、結論が真である確率を上げることが出来る。
②演繹的推論とは、「一般的、普遍的な前提(自然法則)から、より個別的・特殊的な結論を得る推論方法」のこと。
例:「人間は必ず死ぬ。アリストテレスは人間である。従ってアリストテレスは必ず死ぬ。」
特徴:前提が真であれば、結論も真。一般化したものが三段論法。
2,因果関係の証明
研究の多くは、因果関係の証明を目的としたもの。
*数式等でAとBの関係を表そうとすることが多い。(定量的関係)
因果関係とは、Aが原因でB(結果)が生じていること。
その判定として、
・Aが発生すれば、Bが発生する。
・Aが発生しなければ、Bは発生しない。
・Aは、時間的にBに先行して発生する。
が、最もシンプルな基準。
実験例に当てはめると、
・新しい薬を投与したから、血圧が下がった。(主実験)
・新しい薬を投与しなかったから(効果の無いニセ薬を与えたから)、血圧が下がらなかった。(対照実験)
・薬の投与と血圧低下に、時間的な前後関係がある。
*AとBの間のメカニズムの証明があれば、さらに良い。
主実験の結果と対照実験の結果を比べることで、なんらかの操作(介入、A)の結果、Bが発生したという因果関係性をより明確に示すことができる。
*AとBの両方に因果関係を持つ第3の要因Cの影響をコントロールする。
3,仮説を法則・理論にするためには?
仮説演繹法を採用した場合、(仮説の構築及び命題の検証時に)帰納的推論を含むため「絶対正しい」と断言することができない。
言い換えれば、実験科学は確率でしかものが言えない。
*「絶対○○だ。間違いない」と主張するのは、科学では無く、ニセ科学か宗教など(笑)
単なる仮説を法則・理論に高めるために必要なことは、「因果関係」をより確からしくすること。
具体的には、「再現性」を繰り返し確認し、正しさの確率を高めていく作業をする。
ただ、対象が人や動物の場合、同じ刺激を与えても、バラバラの反応を示すことが一般的(同じ人間でも、反応がその時々によって違う)なので、統計学的な手法を使って、バラツキのある中で、存在する(であろう)特徴や傾向を、確率論的に推定していく方法をとる。
何らかの介入(例:新しいスキー教程の採用)を行った結果、技術レベルの平均値に違いが生じたかどうか(生徒の滑走技能が向上したかどうか)をある尺度を持って評価する。まず、「平均値に違いは無い」という「帰無仮説」を立てて、実際に2群(新しいスキー教程を採用した群と採用しなかった群)のサンプルを評価・解析し、その2群の上達度の平均値に違いが見られたとしたら、それが偶然発生したものと見なして、その時の発生確率を計算し、その確率が非常に小さい場合、「こんな滅多に起こらないようなことが起こるということは、前提が間違っているのではないか」と考えて、帰無仮説を棄却するという「二重否定」の方法をとります。
ある母集団(新教程で教わった母集団、教わらなかった母集団)の特徴を把握したいわけですが、通常スクールに入ったすべての生徒を調査できないので、その中から、母集団の特徴を反映するサンプルを取り出し(母集団の特徴を変化させないために一般に「無作為抽出」をする)、そのサンプルの特徴を見ることで、母集団の特徴を推定しようとするものです。(推計統計学)
仮説を理論や法則にするためには、自分でも何回も実験を行って間違いないことを確認した上で、多くの研究者の追試(ちなみに小中学校の理科の実験なども追試の一つ)が行われて再現性が高まると、やっと理論や法則に近づくわけです。
そのぐらい慎重にモノを言わなくてはいけないということです。(笑)
*原発事故の時に、テレビに出てきた(マトモな)科学者が低線量被曝の安全性を断言できなかったのは、論点が確率的な事象で、根拠の評価が難しい部分もあり、科学的な立場からは言い切ることができなかったためです。(一般の方に理解されなかった点だと思います)
4,仮説演繹法の注意点
①主観・先入観の排除
実験等で帰納的な推論を行う場合、客観性が必要。
研究者が対象を観察する場合に、研究者の主観が入ってはいけない。
もちろん対象者の主観が入ってもいけない。
新薬の評価では、通常「二重盲検法」が用いられ、使っている薬が本物か、ニセ薬か、①医師、②患者、そして、(治験をコントロールするごく少数の人間を除き)製薬会社の病院担当者なども含めて、誰も知らない状態で、薬の割り付け、評価がされます。
完全に「主観を排除」しているわけです。(医学では当たり前の考え方になっています)
一般社会では、ここがずさんで、仮説が「主観の塊」だったりします。(笑)
自分の都合の良い事実のみ拾い上げ、都合の悪い部分は無視する、など当たり前のように行われています。
もちろん、スキー業界も例外ではありません。(笑)
②演繹的なプロセスに誤りが無いこと
スキー業界の場合、演繹的なプロセスにも問題がある場合が多いです。
このプロセスには、論理的な正しさと明快さが必要です。
前提に誤りがある、推論の過程が間違っている、ケースをしばしば見ます。
注意点を含めたより具体的な仮説演繹のステップは次のようなものになると思います。
①主観を排除して仮説を立てる。
②仮説が正しいかどうか、命題を立て、これを(主観を可能な限り排除した形で)検証する。
③検証の方法に誤りが無く、結果が仮説の正しさを論理的に証明するものでなくてはいけない。
④追試によって、再現性を確認できるようにする。
決まったプロセスに則って事実を積み重ね、検証を繰り返すことで正しさの確率を高める、という理解を持つ必要があると思います。
主観の羅列は、経験的な真実が含まれている可能性もあり、すべてダメとは言いませんが、データなどの客観的な根拠が無いと、何らかの意義のある「結論」を出すことは難しいと思います。
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