ジュニアスキー

ジュニアアルペン競技とスキー全般についての情報ブログです。

霧降高原リフト人模様

高度成長期、スキーバブルから、競争者の出現、赤字転落までを、霧降高原スキー場を例に取り、取材しています。

霧降高原リフト人模様1 人生とカタクリ

2010年08月03日 朝日新聞

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日の出に輝く霧降高原・キスゲ平のニッコウキスゲ=1979年7月、写真家・高野康男さん撮影

高野康男さん(65)の転身
 カタクリとの出合いが人生を変えた。1973(昭和48)年4月末のことだ。
 その年の正月、奥日光の興業会社から日光市が営む霧降(きりふり)高原リフト事業所職員になった。スキー場のリフト運行の経験を買われての転職だ。新米職員の朝は、事業所の駐車場から運転室のある第1リフトの到着地点まで歩いて登ることで始まる。直線距離455メートル、標高差100メートル。後から来る職員は、新米が動かしたリフトで出勤となる。
 雪解け後のリフトの軌道下を歩いていると、鉄塔脇にカタクリが咲いていた。薄紫の花びらをうつむかせた姿は、「なんともいえず可愛らしかった」。翌日、カメラを携えて行くと、動物にでもやられたのか花は折れていた。「出合ったら、すぐに撮らなければ、自然は待っていてくれない」と一期一会を思い知らされた。
 常にカメラを手元に置くようになった。カメラは小学生の時、街の写真店の暗室で、現像液につけた印画紙から画像が現れる不思議にとりつかれて以来の趣味だった。中学では、友達の彼女を写真に撮り、友人の顔と合成してハート形に焼くなどの特技でクラスの人気者になっていた。
 当時のスキー場は宿泊客もとっており、職員には当直もあった。勤務後の深夜や未明にも、植物や四季折々の風景を撮りためた。
 81年、プロ写真家の登竜門ともいわれる写真展の公募審査に合格、翌年10月に東京で個展を開いた。「霧降高原の四季」と題し、自信作57点を飾った。個展をきっかけに、83年に転身。3人目の子どもが妻のおなかにいた時期で、退職金はその年の8月までもたなかったが、「カメラで生きる」気持ちを持ち続けた。
 自然を題材にした本やポスターなどを手がけ、昨年からは生涯学習施設「日光市杉並木大学校」の写真講座を受け持つ。「霧降の自然には、人生をかけるに値するものがあった。リフト事業にかかわらなければ気づかなかったことだ」と顧みる。
     ◇
 日光市の霧降高原リフトは、赤字と老朽化のため8月末に営業を打ち切り、45年の歴史に幕を閉じる。リフトに携わった人々の思いとともに、時代の波を受け続けたリフト事業を振り返る。(この連載は服部肇が担当します)


霧降高原リフト人模様2 スキー場造り

2010年08月04日

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霧降高原スキー場の全景。背後は小丸山=1973年、写真家・高野康男さん撮影

 霧降高原リフトは、1965(昭和40)年12月、日光市の市営スキー場のオープンと同時に運行が始まった。開業のうたい文句は「東京から一番近いスキー場」。
 前年冬。スキー場予定地一帯で、腰まで雪に埋もれながら棒を差し込んで積雪を測り、気温を記録した。当時は総務課税務係。本来の仕事とは別に秘書課直属の「調査隊」の一員に指名された。「半ドンの土曜午後から日曜日に、雪をかき分け、くまなく巡った」。未舗装の道の行き着いた先に小屋をかけ宿泊。2段ベッドを両脇に置いただけの造りだった。
 53年ごろ、高原の地権者17人が、集落で管理していた土地42ヘクタールをスポーツ教育施設建設に役立ててほしいと、市に寄付した。観光客誘致へ地元も市も動き、スキー場建設へと進んだ。心配は積雪が十分かどうかだった。予定地は小丸山(標高1601メートル)の南側斜面で日当たりがいい。手弁当の「調査隊」は「斜面は東南東を向いており、日照による雪解けは緩い」と報告書をまとめた。スキー場建設にゴーサインが出た。
 開業直前の秋にスキー場建設事務局員となった。「スキーコース造りで、また歩き続けました」。リフトは3基。高台まで乗客を運ぶ第1リフトを除き、第2、第3リフト周辺でコースを探った。第3リフト近くの沢をはさみ、上級者用の「キスゲコース」と、緩斜面で初心者用の「白樺(しら・かば)コース」を設定。第2リフト沿いは、山火事延焼を防ぐためカラマツ林を切り払った地形を活用して初心者用コースとした。山好きで高原一帯を歩き回った経験も生きた。
 スキー場開業の翌66(昭和41)年6月、リフトは夏の営業も開始した。高原の初夏に咲き誇るニッコウキスゲを楽しめる空中散歩が売り物になった。その年、ニッコウキスゲが満開となった1回目の日曜日のことが鮮明に記憶にある。「たまげたことが起きた」からだ。未舗装の道に、車が押しかけ、渋滞で動けなくなった。行き交う際にバスが端に寄り過ぎ、傾いたとの報告もあった。リフトは1時間待ちの大人気だった。
 人気にあやかり、日光市は当初計画になかった第4リフトを小丸山頂上付近に67年に急きょ建設、高度成長に乗ったレジャー時代を実感した。


霧降高原高原リフト人模様3 人工雪導入

2010年08月05日

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降雪機が吹き上げた雪が風に乗り、氷をまとった霧降高原の木々=1973年1月、写真家・高野康男さん撮影

 霧降高原スキー場は開業後、雪不足に泣いた。1975(昭和50)年度は営業を中止せざるを得なかった。
 日光市は77年、起死回生策として西独製の降雪機を計3千万円で4基購入。日本のスキー場の中で先駆的だった。稼働初年度となった78年、事業所長に赴任。財政係長からの起用で、公営企業として独立会計に移るため、財政の腕を買われた。だが、現場は問題が山積していた。
 人工降雪を目指したゲレンデは2・4ヘクタール。「箱庭のような」広さだが、当時の上級者用の「キスゲコース」だけでも、降雪機は10台必要と見込まれていた。それが、半分以下の台数となったのは、市に予算がなかったためだ。
 台数の少なさを、事業所の職員が知恵で補う。当時の降雪機は、固定式が通常だった。それを、移動式にした。無限軌道の上に降雪機を置き、機動力をもたせた。スキーコースに放水設備を数多く設け、無限軌道で移動させた降雪機をつなぎ、コース一面に雪がまけるように工夫を重ねた。「移動した先で水を供給する消防車の原理。現場から力をもらった」と語る。
 だが、この人海戦術は初年度は失敗した。「十分な面積にまいたが、スケート場になってしまった」と振り返る。まいた水の温度が高すぎて空中で雪に変わらず、地表で氷となった。当時は、気温が零下7度なければ雪ができなかった。市水道課に協力してもらい、湧水(ゆう・すい)を事前に冷やす「クーリングタワー」を設け、零下4度でも雪を降らせることが可能になった。
 翌年からは、パウダースノーを降らせた。「人工の雪です。いつでもおいでください」。ハンドマイクを握って場内を巡り、PRにつとめた。集客のため茨城や埼玉などを回り、民家の軒先にポスターを張らせてもらった。
 別コースにも降雪を広げ、主軸リフトには2号機も造った。リフト客は3倍に増えた。在任後半の2年、それぞれ2千万円の純利益を生んだ。リフト全盛期だった。
 東京から近場で手軽さを売ったスキー場は、手軽さゆえの手狭さで、客のあきは早かった。近辺に大型スキー場ができると、冬場の経営は重荷と化した。92年、年間21万人の利用をピークに、リフト事業は93年、赤字に転落した。


豊かな自然めでる場

2010年08月11日 朝日新聞

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名前の通り、霧がかかると幻想的な表情をみせる霧降高原=1978年秋、写真家・高野康男さん撮影

 名前をもじったあだ名がある。高校球児で捕手でもあった。名物所長は「ミットさん」と親しまれた。
 リフト事業の赤字が常態化していた1999年度に就任。「スキー場は閑古鳥。夏のもうけを、冬の営業が食いつぶしている」状態だった。
 「赤字で金をかけられないから」と自ら草を刈った。第1リフト周辺の鹿食害防止用ネットは、自分もくい打ちして設置費用を軽減、1500万円はかかるとされたものを、290万円でこなした。
 高原をくまなく歩いたことが、副産物を生んだ。「白いカタクリをここで見つけたのは私が最初」。200種を誇る高原の植生や自然が身に染み込んだ。リフト乗降場近くに築山を作り、9種類のツツジなど高原を代表する植物を紹介した。リフト事業所のパンフレットの植物写真のほとんどは、所長のカメラに収まったものだ。
 豊富な自然をイベントにも活用した。2000年と01年の元旦。初日の出とともにリフトを運行した。市内から募集した100人は、快晴の初日の出に歓声をあげた。
 高原は夜空もすてきだ。「夏の大三角形が手にとれるよう」。8月に「華麗なる夕べ」と題して星の観察会を開催。参加者50人に、事業所で作ったカレーをふるまった。
 春に実施してきたニッコウキスゲの補植を秋も実施。ボランティアを募り、補植後には自分がガイドとなって山を案内した。「補植にかける人件費が浮くでしょ」
 在任の2年度とも、「収支はトントン」で、赤字にはならなかった。自然という資源を生かせたと振り返る。
 リフトはその後、赤字基調が続き04年にスキー場を休業。日光市は、8月末でリフト事業を打ち切り、約7億円かけて再整備事業に入る。標高1350メートルから1440メートルの第3リフト跡地に、遊歩道を整備。標高1450メートルから1580メートルに至る第4リフト跡地には、傾斜30度の斜面を生かした階段などを作り、11年4月にオープンする。
 「第4リフト斜面から、東京スカイツリーも見えるはずだ。自然をめでる場としても絶好。歩道などの施設を造って終わりとするのでなく、霧降の自然を発信し続けて欲しい」。豊富な自然をここに来て知り、それを生かした名物所長の注文だ。(おわり)


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プロフィール

ジュニアスキー

Author:ジュニアスキー
子供が小1の冬に家族でスキーを始め、すっかりその魅力にはまっております。小4から地元のスポーツ少年団に所属し、競技スキーを始めています。(現在中3)
ジュニアアルペン競技の情報ブログとしてスタートし、最近ではスキー全般、その他に関する話題も扱っています。
上欄のカテゴリから興味のある話題をお選び下さい。
(2009年7月25日開設)


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