英語ブーム 再び 話したいけど話せない…その訳は
英語ブーム 再び 話したいけど話せない…その訳は
小学校で英語授業が必修化され、社内公用語を英語にする企業が相次ぐなど「英語ブーム」が続いている。書店に行けば、英語本コーナーがにぎやかだ。英語を学ばなければならないと思いつつも、“英語コンプレックス”なる言葉ができるほど苦手意識を持つ日本人。日本人と英語の愛憎半ばする関係を探った。(磨井慎吾)
TOEIC本が圧勝
「2000年代以降、第3次英語ブームが続いている」と話すのは、100冊以上の英語本を出版し、『英語ベストセラー本の研究』(幻冬舎新書)の著作もある作家の晴山陽一さん(61)。敗戦後の1940年代を第1次、東京五輪や大阪万博など大型国際イベントが続いた60年代を第2次とした上で、2000年代初頭から現在までを第3次と位置づける。「ただ、ブームは続いているが、大学生の英語力の低下が指摘されるなど、成果が挙がっているとは言いがたい。最近の英語本は、TOEIC(トーイック)関連本の独り勝ちの状況」とみる。
「TOEIC」とは、国際コミュニケーション英語能力テストのこと。平成23年度受験者数は約227万人と、過去最高を記録した。元年度の受験者数は約27万人だったから、8倍強も増えた計算だ。ここ20年ほどは右肩上がりの増加を続けている。
外国語学校などでつくる「全国外国語教育振興協会」の推計によると、外国語教育産業の市場規模は約8千億円で、うち9割以上を英語が占めるという。
明治から続く課題…
英語市場が巨大化した割に、日本人の英語力の評判はよくない。なぜ日本人は英語が苦手なのか。常にやり玉に挙げられてきたのは、学校英語教育だった。
だが、日本の英語教育史に詳しい斎藤兆史(よしふみ)・東大教授(54)の『日本人と英語』(研究社)によると、「学校で習う英語は役に立たない、この状況を何とかしろという不満は、明治中期以降、何度も噴出している」。現在に至るまで幾度も英語教育改革が提唱されてきたが、斎藤教授は同書の中で「日本英語教育史上、中学・高校レベルでの大衆英語教育がめざましい成果を挙げたためしはただの一度もない。それは、文法・読解重視の教育が悪いからでも、受験英語が悪いからでもない。並の日本語話者が、一日一時間程度の授業を六年間受けただけでいっぱしの英語の使い手になるのは、そもそも無理なのである」と、過大な期待のもとに制度いじりを繰り返す改革論を痛烈に批判する。
強烈な学習熱不可欠
言語学者の鈴木孝夫・慶応大名誉教授(85)も、『日本人はなぜ英語ができないか』(岩波新書)で、(1)英語は日本語とまったく違う言語系統に属し、ヨーロッパ諸語の話者が英語を学ぶ場合に比べ格段の努力が必要(2)植民地にされたことがなく、英語ができなくても社会生活で一切困らない。高等教育もほぼ日本語で行われるので、そもそも学ぶ動機付けが弱い-ことを指摘する。英語教育の成果を真に挙げるには、“英語漬け”になることをいとわない学び手の強烈な学習熱が不可欠なのだ。
日本の学校英語教育が例外的に成功し、キリスト教思想家の内村鑑三(1861~1930年)や思想家の新渡戸稲造(1862~1933年)ら多数の「英語名人」を生んだのは、すべての授業を英語で行った明治初期だった。だが、それは植民地化の恐怖と、経済や文明水準の巨大な格差を背景にした学習熱でもあった。日本語での教育環境が整い、日本の国力が高まるにつれ、学生の英語力は低下していく。日本の国際的地位と英語学習意欲には、密接な関係があった。
今また、英語ブームが到来している。今後、日本人の英語力が顕著に上昇する日が来るのだろうか。だが、それは日本にとって、必ずしも幸福な時代ではないのかもしれない。
数年おきに生まれる大ヒット作
英語本業界では、数年おきに大きなヒット作が生まれている。
戦後初の大ベストセラーとして有名なのが、『日米会話手帳』(科学教材社)。終戦当日に企画され、突貫工事で編集作業が進められた32ページの粗末な小冊子ながら、昭和20年9月には書店に並び、年末までに約360万部を売り上げた。
以後、受験競争の激化による文法解説書の需要や、平成以後の「使える英語」を目指す会話重視の流れなど時代の影響を受けつつ、折々のベストセラーが生まれてきた。
晴山さんは「ここ最近は大ヒット作がなく、英語本が全般的に沈滞期に入りつつある」とみる。一方で、インターネット電話「スカイプ」を利用した格安個人授業など、英語独習の方法が近年多様化している傾向を指摘。本という形態の利点を見直し、文法書を再評価する動きも生じているという。
非常に鋭い分析です。
斎藤教授の「並の日本語話者が、一日一時間程度の授業を六年間受けただけでいっぱしの英語の使い手になるのは、そもそも無理」という意見は、あまりにも本音をズバリ言っているので、笑ってしまいました。
日本にいて、学生が英語を「使えるように」なるためには、少なくとも学校授業の総時間の半分以上を英語で行い(週3日間以上をすべて英語の時間にするという意味)、かつそれを5-6年は続けないと無理だと思います。
「使えるように」するには、非常に長い時間と努力が必要になるんですね。
それを、学校教育で行うためには、ハード、ソフト面で全く足りないことも事実です。(特に外人教師)
つまり、今のままでは、仕組みをどういじっても「使えるように」はできないんです。
ですから、少なくとも「読み・書き」はきちんと出来るようにしよう、というのが従来の英語教育だったわけです。
「聞く・話す」は、時間がかかる上に、必要になる人が相対的に少なく、かつその必要レベルがせいぜい海外旅行程度の人が多いために、それ以上を求める人は自主的に勉強をする仕組みだったわけです。
現在は、授業時間がほとんど増えていないにもかかわらず、「聞く・話す」に時間を割かざるを得なくなっていますので、結果としていずれもが中途半端になり、「読み・書き、聞く・話す」のすべてが出来ない学生が増えている状況だと思います。
「選択と集中」が必要だったのに「分散」を行ってしまった結果です。
日本に住む一般的な日本人が、英語で一番使う要素は、「読む」だと思いますので、少なくとも中学・高校の英語をそこに集中した方が、結果として全体の効果は上がると思います。
大学入試に「TOEIC」を取り入れるなんて、学力を下げるだけです。
小学校で英語授業が必修化され、社内公用語を英語にする企業が相次ぐなど「英語ブーム」が続いている。書店に行けば、英語本コーナーがにぎやかだ。英語を学ばなければならないと思いつつも、“英語コンプレックス”なる言葉ができるほど苦手意識を持つ日本人。日本人と英語の愛憎半ばする関係を探った。(磨井慎吾)
TOEIC本が圧勝
「2000年代以降、第3次英語ブームが続いている」と話すのは、100冊以上の英語本を出版し、『英語ベストセラー本の研究』(幻冬舎新書)の著作もある作家の晴山陽一さん(61)。敗戦後の1940年代を第1次、東京五輪や大阪万博など大型国際イベントが続いた60年代を第2次とした上で、2000年代初頭から現在までを第3次と位置づける。「ただ、ブームは続いているが、大学生の英語力の低下が指摘されるなど、成果が挙がっているとは言いがたい。最近の英語本は、TOEIC(トーイック)関連本の独り勝ちの状況」とみる。
「TOEIC」とは、国際コミュニケーション英語能力テストのこと。平成23年度受験者数は約227万人と、過去最高を記録した。元年度の受験者数は約27万人だったから、8倍強も増えた計算だ。ここ20年ほどは右肩上がりの増加を続けている。
外国語学校などでつくる「全国外国語教育振興協会」の推計によると、外国語教育産業の市場規模は約8千億円で、うち9割以上を英語が占めるという。
明治から続く課題…
英語市場が巨大化した割に、日本人の英語力の評判はよくない。なぜ日本人は英語が苦手なのか。常にやり玉に挙げられてきたのは、学校英語教育だった。
だが、日本の英語教育史に詳しい斎藤兆史(よしふみ)・東大教授(54)の『日本人と英語』(研究社)によると、「学校で習う英語は役に立たない、この状況を何とかしろという不満は、明治中期以降、何度も噴出している」。現在に至るまで幾度も英語教育改革が提唱されてきたが、斎藤教授は同書の中で「日本英語教育史上、中学・高校レベルでの大衆英語教育がめざましい成果を挙げたためしはただの一度もない。それは、文法・読解重視の教育が悪いからでも、受験英語が悪いからでもない。並の日本語話者が、一日一時間程度の授業を六年間受けただけでいっぱしの英語の使い手になるのは、そもそも無理なのである」と、過大な期待のもとに制度いじりを繰り返す改革論を痛烈に批判する。
強烈な学習熱不可欠
言語学者の鈴木孝夫・慶応大名誉教授(85)も、『日本人はなぜ英語ができないか』(岩波新書)で、(1)英語は日本語とまったく違う言語系統に属し、ヨーロッパ諸語の話者が英語を学ぶ場合に比べ格段の努力が必要(2)植民地にされたことがなく、英語ができなくても社会生活で一切困らない。高等教育もほぼ日本語で行われるので、そもそも学ぶ動機付けが弱い-ことを指摘する。英語教育の成果を真に挙げるには、“英語漬け”になることをいとわない学び手の強烈な学習熱が不可欠なのだ。
日本の学校英語教育が例外的に成功し、キリスト教思想家の内村鑑三(1861~1930年)や思想家の新渡戸稲造(1862~1933年)ら多数の「英語名人」を生んだのは、すべての授業を英語で行った明治初期だった。だが、それは植民地化の恐怖と、経済や文明水準の巨大な格差を背景にした学習熱でもあった。日本語での教育環境が整い、日本の国力が高まるにつれ、学生の英語力は低下していく。日本の国際的地位と英語学習意欲には、密接な関係があった。
今また、英語ブームが到来している。今後、日本人の英語力が顕著に上昇する日が来るのだろうか。だが、それは日本にとって、必ずしも幸福な時代ではないのかもしれない。
数年おきに生まれる大ヒット作
英語本業界では、数年おきに大きなヒット作が生まれている。
戦後初の大ベストセラーとして有名なのが、『日米会話手帳』(科学教材社)。終戦当日に企画され、突貫工事で編集作業が進められた32ページの粗末な小冊子ながら、昭和20年9月には書店に並び、年末までに約360万部を売り上げた。
以後、受験競争の激化による文法解説書の需要や、平成以後の「使える英語」を目指す会話重視の流れなど時代の影響を受けつつ、折々のベストセラーが生まれてきた。
晴山さんは「ここ最近は大ヒット作がなく、英語本が全般的に沈滞期に入りつつある」とみる。一方で、インターネット電話「スカイプ」を利用した格安個人授業など、英語独習の方法が近年多様化している傾向を指摘。本という形態の利点を見直し、文法書を再評価する動きも生じているという。
非常に鋭い分析です。
斎藤教授の「並の日本語話者が、一日一時間程度の授業を六年間受けただけでいっぱしの英語の使い手になるのは、そもそも無理」という意見は、あまりにも本音をズバリ言っているので、笑ってしまいました。
日本にいて、学生が英語を「使えるように」なるためには、少なくとも学校授業の総時間の半分以上を英語で行い(週3日間以上をすべて英語の時間にするという意味)、かつそれを5-6年は続けないと無理だと思います。
「使えるように」するには、非常に長い時間と努力が必要になるんですね。
それを、学校教育で行うためには、ハード、ソフト面で全く足りないことも事実です。(特に外人教師)
つまり、今のままでは、仕組みをどういじっても「使えるように」はできないんです。
ですから、少なくとも「読み・書き」はきちんと出来るようにしよう、というのが従来の英語教育だったわけです。
「聞く・話す」は、時間がかかる上に、必要になる人が相対的に少なく、かつその必要レベルがせいぜい海外旅行程度の人が多いために、それ以上を求める人は自主的に勉強をする仕組みだったわけです。
現在は、授業時間がほとんど増えていないにもかかわらず、「聞く・話す」に時間を割かざるを得なくなっていますので、結果としていずれもが中途半端になり、「読み・書き、聞く・話す」のすべてが出来ない学生が増えている状況だと思います。
「選択と集中」が必要だったのに「分散」を行ってしまった結果です。
日本に住む一般的な日本人が、英語で一番使う要素は、「読む」だと思いますので、少なくとも中学・高校の英語をそこに集中した方が、結果として全体の効果は上がると思います。
大学入試に「TOEIC」を取り入れるなんて、学力を下げるだけです。
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