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WSJの看板コラムニストが公表する「977語の倫理規定」

WSJの看板コラムニストが公表する「977語の倫理規定」

競争力の源泉は「業界との癒着と断つ」


2010年06月24日(木) 牧野 洋

ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のIT(情報技術)コラムニスト、ウォルト・モスバーグは、アメリカ新聞業界最高の報酬を得ている。彼が書くコラム「パーソナルテクノロジー」の影響力の大きいからだ。

 では、その影響力を維持する力の源泉はどこにあるのか。一言で言えば、高い倫理基準である。

 高い倫理基準を設け、それを厳守しているからこそ、消費者本位の視点を守り、消費者の信頼を得られるのだ。「業界からの甘い誘惑に直面しても筆を曲げない」と信じてもらえなければ、競争力を失うのである。

 とはいえ、言うは易し、行うは難し、である。

 新製品の寄贈、高級レストランでの接待、スポーツや演奏会のチケット――業者からの誘惑には枚挙にいとまがない。有力批評家には無数の業者が群がり、あの手この手で「業者にとって良い批評」で書かせようとする。「どんな批評が出るかによって新製品の売れ行きが決まる」と思っているからだ。

 モスバーグは上司の命令を拒否して、「IT業界の世界首都」であるシリコンバレー駐在も拒んだ経緯がある。常に業界関係者に囲まれて生活していると、業界の論理にのみ込まれ、一般消費者の視点を保てなくなると思ったからだ。

 モスバーグにしてみれば、シリコンバレー駐在は「記者クラブ詰め」に相当したのだろう。日本特有の記者クラブは、物理的にも取材先の建物の中にある。記者クラブに常駐していると、朝から晩まで取材先の論理を聞かされ、知らぬうちに読者ではなく取材先の視点で物事を考えるようになるリスクがある。そうした危険をモズバーグは排除したのである。

 驚きなのは、モスバーグはシリコンバレー駐在拒否でも不十分と考えたことだ。「ここまで書くか」と思えるほど詳細な職業倫理声明を自主的に作成し、WSJが運営するウェブサイト上の目立つ位置で開示している。

 少し長くなるが、主なポイントだけ紹介しておこう。

*金銭や贈答品を取材先やPR会社から受け取らない。
*取材先やPR会社から講演料は受け取らない。
*相手持ちの招待出張や格安商品の提供は受け付けない。
*取材先に助言しないし、どんな形の諮問委員会にも入らない。
*時に取材先からTシャツをもらうが、わたしが着ると妻は嫌がる。
*取材対象企業の株式もハイテク株ファンドも保有しない。
*自分の年金運用先にもハイテク株ファンドを含めない。
*批評用に支給された新製品は必ずメーカーに返却する。
*廉価なマウスやソフトは返却せずに捨てるか、寄付に回す場合もある。
*発売前にメーカーから製品説明を受けても、批評を書くとは限らない。
*製品説明を受けて批評を書く場合でも、好意的な批評を書くとは限らない。
*批評のために使用した新製品を気に入ったら、通常価格で自分で買う。
*批評を書くに際して自社の広告担当者と接触しない。
*たとえ講演料なしでも取材先の依頼で講演しない。

 WSJの親会社ダウ・ジョーンズには全社員が順守しなければならない倫理規定がある。しかし、「高い倫理性こそ自分の価値の源泉」と考えるモスバーグにしてみれば、会社の倫理規定だけでは不満だった。

(中略)

酒席は取材先に食い込んだ証拠?

 個人的には、「取材先から金銭を受け取ってはいけない」「取材対象企業の株式を売買してはいけない」といった基本については、会社の倫理規定ではなく取材現場で学んだ。盆暮れの贈答品や取材先との会食についても、会社には厳格な指針はなく、記者個人によって対応はまちまちだった。

 1990年前後のバブル絶頂期には、盆暮れに取材先から自宅あてに贈答品が送られてくるのは日常茶飯事だった。特に高価な品物でない限りは、社内では社会通念上許される慣行と考えられていた。経済界全体でもいわゆる「虚礼廃止」の動きは広がっていなかった。

不祥事に見舞われた問題企業からの贈答品を返却する同僚記者もいた。問題企業は社会的な信用失墜に見舞われており、マスコミに「よいしょ記事」を書いてもらおうと必死なのだ。しかし一方で、問題企業から送られてきた高級ワインを平気で飲んでしまう幹部もいた。

 取材先との関係を損なうとの不安もあり、無理に贈答品を返却しにくい事情もあった。「取材先との関係を損なう」とは、「ニュースリリースを発表前にもらえなくなる」、つまり「リーク頼みの特ダネを書けなくなる」という意味だ。

 取材先との夕食はむしろ奨励された。酒の席ならば相手は気を許して、いいネタを教えてくれるだろう――こんな期待があるからだ。有力企業から夕食に招待されると、社内では「取材先に食い込む努力をした証拠」として評価された。

 取材現場では、「取材先から一方的に接待されるのは好ましくない」と教えられた。だが、親子ほど年齢が離れた相手に対して「こちらで招待させてください」と言うと、失礼に思われかねない。交際費があまり出ない記者が相応の負担するのも容易ではない。合計すれば、取材先に負担してもらった金額のほうが大きかっただろう。

「贈答・接待は日本の文化」を言い訳にするな

 モスバーグは取材先との会食については具体的な基準を定めていない。食事をしながら取材することはほとんどなく、必要性を感じていないようだ。

 基本的に、彼はWSJのワシントン支局か、相手企業のオフィスで取材する。たまにランチミーティングを受け入れることもある。その場合でも、相手企業の社員向けカフェテリアでサンドイッチかサラダを食べる程度だ。

 取材先の自宅を訪ねることもめったにない。例外的にアップルの最高経営責任者(CEO)、スティーブ・ジョブズの自宅に行ったことがある。ただし、ジョブズががんからの回復途上にあり、自宅療養していたからだ。ジョブズ宅ではコーラかコーヒーを飲んだだけだった。

 折しも日本では、元官房長官の野中広務が官房機密費の実態について暴露し、波紋が広がっている。官房機密費の一部がマスコミ工作に使われ、金銭の受け取りを拒否したのは評論家の田原総一郎だけだったという。金銭の受け取りは、盆暮れの贈答やレストランでの接待とは次元が違う。

 事実だとすれば、日本にはモスバーグとは対極の世界にいるマスコミ人が多いということだ。金銭を受け取っていながら、高い倫理声明を自主的に策定・公開できるだろうか。さすがに良心が許さないだろう。

 アメリカと違い、日本には独自の「贈答文化」や「接待文化」がある。だが、業者ではなく消費者本位の紙面作りを社是とするならば、「贈答・接待は日本文化」を言い訳にしてはならないだろう。業者を向いた紙面作りに傾斜すれば、「新聞」ではなく「業界紙」になってしまう。

 次回は、「アメリカ新聞業界で最高の報酬を得ている新聞記者」と言われるモスバーグの推定年俸100万ドルに焦点を当てる。

(敬称略)


ジャーナリズムにおいて信頼性を担保する必須条件の一つに「中立性」があります。

特定の企業などと結びつきがあれば、それだけで記事の信憑性が疑われることになります。

特に利益供与(利益相反)に関しては、厳しく問われます。

日本ですと、新聞は比較的ましな方だとは思いますが、テレビはかなり倫理性に問題があり、評論家(例えば自動車評論家など)に関しては、「業界ゴロ」のような人もいると言われています。

スキー業界は、はっきり言ってそれ以前の状況です。

倫理性という概念自体が存在しないように見えます。

特定メーカーから用具の提供を受けているプロたちが、スキー雑誌において他メーカーの用具の論評をするなど、私から見ると訳が分からない状況ですね。

雑誌の記事が、記事なのか広告なのか分からないと言うことは、前に指摘させていただきました。

スキー関係者も、一度は「倫理性」について考えてみても良いのではないかと思い、牧野さんの記事を引用させていただきました。

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プロフィール

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Author:ジュニアスキー
子供が小1の冬に家族でスキーを始め、すっかりその魅力にはまっております。小4から地元のスポーツ少年団に所属し、競技スキーを始めています。(現在中3)
ジュニアアルペン競技の情報ブログとしてスタートし、最近ではスキー全般、その他に関する話題も扱っています。
上欄のカテゴリから興味のある話題をお選び下さい。
(2009年7月25日開設)


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